隠れたお手本企業

大塚産業マテリアル社 大塚敬一郎社長インタビュー
質問1 御社は江戸時代の創業と伺いました。最初に会社のご紹介をお願いします。

宝永3年(1706年)創業とわれています。当時は蚊帳の製造をしており、戦前は三越デパートに高級ブランドの蚊帳として独占的に納めていたこともあったようです。また戦中は今でいうFRPを研究し、真綿の材料の絹を用いて剛性の高い飛行機の操縦桿なども開発していました。

しかし昭和40年頃に蚊帳の需要が急速になくなり、蚊帳で培った織る、染める、縫製するという技術を生かして自動車産業に参入し現在に至っています。


質問2 現在の仕事の内容を教えてください。

現在は自動車のシートなどの縫製品を中心としながら、電車や飛行機、あるいは事務用品のシートのような同一用途の商品や、あるいはまったく別分野の製品の縫製を手掛けています。一方、労働集約的な縫製作業に代わる工法として布の立体成形による商品開発も行い、生産し販売しています。

設備も裁断にCAD・CAMをかなり早い時期から導入するなど、生産技術力の向上を常に意識した投資を行ってきたつもりです。

同時に生産量の増加やコスト競争力の向上の目的で比較的早い時期から海外生産を行っています。現在タイと中国に工場があります。


質問3 御社は人財の育成に多くの時間をかけておられます。

15年前から毎年リーダー格以上全員が、会社近くのホテルに缶詰めになって次年度の生産・販売をどうするかの具体策を策定する一泊二日の合宿をしています。始めた当初は社長の意思を直接に伝える場として運営していましたが、徐々に流れが社長中心から従業員中心になり、今では全員がまる二日間にわたり日常業務を離れて次年度の予算を検討することにより、自ら計画し実行できる予算案になりました。

ただそれだけでは情報知識が会社内での経験の範囲を超えられず、これからの変化に対して対応しきれないと思うので、リーダー以上の幹部は年に最低一講座を、中小企業大学校などの研修プログラムから興味のある研修を選んで、参加するようにしています。

それと全従業員対象の教育機会としてチョコ案という改善実行を評価する制度があります。これは全従業員がひと月に最低でも一件の改善を実行しそれを簡単に記入して報告する仕組みです。改善といってもどんな小さなことでもマネでも何でもいいし、長い文章を書く必要がなく場合によっては写真で改善前後を示すだけでいいので、言葉が不自由な外国人作業者でも参加できる仕組みです。私はこの改善件数と利益の伸びには相関があるような気がしています。この制度を通じてあらゆる従業員をほめてあげられるわけで、これも重要な教育の仕組みとして活用しています。


質問4 今後の展開をお聞かせください

私は以前から会社の目指す方向は規模の拡大ではないと思っていました。自動車業界ではちょっと前まで「400万台クラブ」といった、ある程度の規模を前提にしないと生き残れないといった議論がありましたが、最近では全く聞かれなくなりました。

私が目指すのは継続性です。実は社長に就任した当時(27年前、40歳)はあまり気にしなかった当社の歴史ですが、50歳を超えるころからこの歴史の重みを感じるようになりました。もちろん会社を継続するには売り上げと利益が必要ですが、それを実現するのはやはり人であると思います。当社が300年以上にわたって引き継いできたことは、この人を大切にするということであったのではないかと思っています。

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